【労務の談話室】第9回 パワハラ防止法 ~パワハラの定義について~

2022年4月1日より労働環境に関わる法改正がいくつかありますが、今回は労働施策総合推進法(通称:パワハラ防止法)の規定が指す「パワーハラスメント」に焦点を当てます。

 

労働施策総合推進法は2019年5月に成立し、大企業では2020年6月、中小企業では2022年4月から施行となります。そのため職場におけるパワーハラスメントの防止措置が事業主の義務となり、皆さまの法人でも、パワハラの内容やパワハラ行為者への処分などを就業規則に盛り込む変更をされたことと思います。

 

パワーハラスメントという言葉自体は法律での使用はありませんが、厚生労働大臣が労働施策総合推進法の中で「雇用管理上の措置」に関しての指針を定めており、その指針においてパワーハラスメントは下記のように定義しています。

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・職場におけるパワーハラスメントは、職場において行われる
①優越的な関係を背景とした言動であって、
②業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、
③労働者の就業環境が害されるものであり、①から③までの要素を全て満たすもの をいう。

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個別の事案の状況等によって判断が異なる場合もあり得ますが、職場におけるパワーハラスメントに該当する具体例としては、以下の事例等が考えられます。

 

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(1)身体的な攻撃(殴打、足蹴りを行う、相手に物を投げつけるなど)

(2)精神的な攻撃(相手の性的指向・性自認に関する侮辱的な言動を含む人格を不逞するような言動を行う。業務の遂行に関

する必要以上に長時間にわたる厳しい叱責を繰り返し行うなど)

(3)人間関係からの切り離し(自身の意に沿わない労働者に対して、仕事を外し、長期間にわたり、別室に隔離したり、自宅

研修させたりするなど)

(4)過大な要求(新卒採用者に対し、必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかっ

たことに対し厳しく叱責するなど)

(5)過小な要求(気にいらない労働者に対して嫌がらせのために仕事を与えないなど)

(6)個の侵害(労働者を職場外でも継続的に監視したり、私物の写真撮影をしたりするなど)

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なお、上記指針においては「客観的にみて、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導については、職場におけるパワーハラスメントには該当しない」ともはっきり規定されておりますので、その点もご留意ください。

 

皆様もご対応しているかとは思いますが、この職場のおけるパワーハラスメント等を防止するため、事業主の責務、労働者の責務、及び事業主が雇用管理上講ずべき措置等が指針に定められておりますので、まだ対応していない場合、ご確認ください。

 

また①の「優越的な関係を背景とした言動」には、“逆パワハラ”となる事例も下記のとおり明記されており、ここにも注目する必要があります。

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・同僚又は部下による言動で、当該言動を行う者が業務上必要な知識や豊富な経験を有しており、当該者の協力を得なけ 

 れば業務の円滑な遂行を行うことが困難であるもの。

・同僚又は部下からの集団による行為で、これに抵抗又は拒絶することが困難であるもの。

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一般的にパワハラは“上司から部下へ”行うイメージがありますが、部下から上司の関係においては上記のような事例もあり、“逆パワハラ”という表現に派生しています。なおパワハラであることには変わりませんので、要件は上に挙げた3点と同様です。

 

ハラスメントについては、特に「受け手がどう感じたかで変わる」「受け手がハラスメントだと感じればハラスメントになる」という主観が横行しており、注意や指導について過剰な反応をする労働者も増え、これが逆パワハラが発生する要因となっています。

例) 上司からの指導に対して→ 「言い方がキツイからパワハラです」などと言われる

仕事を頼んだ際に → 拒否や無視などの業務に差し障る態度を取る  など

上記例のような業務上の指導・指示に対し「パワハラを受けたため労基署に相談する・訴える」などと言われた場合には、実際の指導や指示が適切であったかを確認することはもちろんですが、必要以上に該当者に気を遣う上司と労働者の権利を過剰に主張する部下、といった構図にならないよう、慎重かつ毅然と対応しましょう。

 

具体的には、

・口頭指導→書面による指導

(業務上適切な指導や指示であることを指摘(※相手にハラスメントの意識がない場合もあるため)その後も繰り返されるなど改善が見られない場合は、書面で注意指導の内容と「服務規律」の違反となる旨を指摘するなど)

・職員向け研修を行い、意識を変える

(パワハラと業務上の指導の違いについて、外部機関の研修等により意識改革を図る)

・都道府県の労働局や外部コンサルなどの適切な相手に相談する

などが挙げられます。

 

法改正もあり、法人経営に携わる皆さまは、さまざまハラスメントやその内容等について話題にあがることも増え、ハラスメントに該当するかなど、困ることもあるかと思います。上記のパワーハラスメント含め、ハラスメントの種類や内容をきちんと理解したうえ、未然に防ぐ取組と職場の意識を継続させる取組、並びに実際に事案が生じた際には、それぞれに応じた適切な対応を行うことが重要となります。

(文責 佐藤)