通常、賃金は「働いたら支払う」「働かなったから支払わない」(ノーワーク・ノーペイの原則)とされていますが、出勤する日(労働日)に働かなくても賃金が支払われる制度が有給休暇です。有給休暇には大きく2つの種類があります。
*「年次有給休暇」:労働基準法で定められている休暇
基準を満たしていれば正職員・非常勤職員・アルバイトなどの雇用形態に関係なくすべての職員に付与される休暇
*「その他の休暇」:法令などの定めはなく、法人が独自で付与している休暇
付与の対象者や条件は各法人の就業規則などに定められています。
例)慶弔休暇、リフレッシュ休暇など
今回は “年次有給休暇”について、実際に保育園の園長先生方からお問い合わせいただいた内容を交えながらご説明いたします。
年次有給休暇は正職員、非常勤職員、アルバイトなどの雇用形態に関係なく
①入職して継続6か月以上経過している
②付与日前の1年間(初回は半年間)の全労働日の原則8割以上出勤している
全職員に付与されることが労働基準法で定められています。付与される日数は入職してからの継続勤務年数と所定労働日数によって決められていて、就業規則に必ず記載すべき事項となっています。
Q1:令和5年4月1日から正職員の保育士として採用が決まっている学生が、2月と3月にアルバイトすることになっています。正式採用は4月1日なので、年次有給休暇は正式採用される4月1日から半年経過後の令和5年10月1日に初回付与すれば問題ないですか?
A1:10月1日付与とするのは法令違反となります。
法令で定められている年次有給休暇の初回付与日は、入職時の雇用形態に関わらず保育園への入職後6か月経過した日となります。今回のケースでは、例えば当該学生と令和5年2月10日からのアルバイト雇用契約を結んだ場合は、その日が保育園への入職日となるため初回付与日は令和5年8月10日となります。
Q2:Q1の学生は2月と3月は週2日しか働いていませんでした。8月10日に付与する日数はどのように計算すればよいですか?
A2:年次有給休暇は付与日時点の所定労働日数によって付与日数を判断します。
今回のケースの学生の場合、2月と3月のアルバイト雇用契約上の所定労働日数が週2日であれば8割以上出勤しているため、最終的に2月~8月の所定労働日数のうち8割以上出勤していれば付与の対象となり、年次有給休暇の付与日時点での雇用形態は正職員のため付与日数は「10日」となります。
年次有給休暇は入職して6か月経過後に初回付与した日を基準日とし、それから毎年出勤率など条件を満たしていれば基準日に所定の日数が付与されます。
Q3:令和5年6月1日に継続勤務2年6か月になる正職員の保育士がいるのですが、2月の時点で年次有給休暇をすべて使っていて残りがありません。2月に体調不良で2日間休んだので6月に付与予定の12日のうち2日間を先に付与してもいいですか?
A3:付与基準日より前に年次有給休暇の“前借り”はできません。今回のケースの場合、2月に2日間を前借りして6月付与時点で2日を差し引いた10日付与とすることは法令違反となります。
“前借り”と似たような言葉に“前倒し”があります。年次有給休暇を付与基準日より前倒しにすることはできます。ただし、前倒しにした場合は前倒しを行った日が付与基準日となります。
・本来の付与基準日:令和5年6月1日
・前倒しした付与日:令和5年2月1日
・次回の付与基準日:令和6年2月1日
労働基準法の改正により2019年4月より年次有給休暇が10日以上付与される職員については、付与日から1年の間に5日以上取得させなければならないことになりました。
Q4:年次有給休暇を付与してから1年以内に5日取得させないといけないと聞いたのですが、あと1か月で1年経過するのにまだ4日しか取得できていない職員がいます。卒園式が近くて忙しく、期限内に丸1日の休暇取得が難しいのですが、半日休暇を2回取得すれば大丈夫ですか?
A4:半日の年次有給休暇を0.5日として年5日の取得義務日数に含めることは可能です。
ただし、年次有給休暇は1日単位での取得が原則です(1日とは、午前0時から24時を指します)。そのため、半日単位で取得させるためには、半日単位での年次有給休暇取得について就業規則でその運用を認めることを規定しておく必要があります。
なお、年次有給休暇は労使協定を結ぶことによって時間単位での取得も可能ですが、時間単位で取得した年次有給休暇は年5日の取得義務日数に含めることができないので注意が必要です。
また、年5日取得ができないからといって、保育園がお休みで所定休日となっている日(日曜日など)を年次有給休暇扱いとすることはできません。年次有給休暇は“出勤する日(所定労働日)”にのみ取得できる休暇です。
Q5:継続勤務2年6か月、週4日勤務の保育補助の先生に9日の年次有給休暇を付与しました。前年に付与したものが4日残っていて、残日数が13日となったので、年5日の取得義務がありますか?
A5:年5日の取得義務は、「付与した日数が10日以上」の場合に発生します。
今回のケースでは残日数は13日ではありますが、今回付与された日数は“9日”のため取得義務の対象外となります。
“うちの園は法令通りに付与できているのかな?”時間単位で年次有給休暇が取得できるようにするにはどういう手続きをすればいいのかな?”など年次有給休暇に関する疑問などございましたら、当社までご相談ください。
(文責:横田)