先日、ある保育園の先生からご相談がありました。
「遠方にいる高齢の両親が2人で暮らしている。まだ、体の調子が悪いとか具体的なことはないけれど、今後のことを考えると心配で・・・。状況によっては退職しなければいけないのではと不安です。」
実は、私自身もこの問題に直面しており、普段から「介護離職」が現実的な言葉として胸に突き刺さってきます。他人事ではありません。
人員配置が求められる幼稚園や保育園、認定こども園の運営においても「介護離職」は、大きな問題です。おそらく、この問題に直面している世代は、40代から60代の方達でしょう。園長や主任、重要な役割を担うベテランの職員です。これらの経験値の高い職員から、いきなり「介護休業の取得」、または「親の介護のために退職」という事態も想定されます。職員の離職による保育現場の混乱は避けられませんし、経験値の高い職員から若手職員への保育技術や積み重ねた知識等の伝達など、「目に見えない価値」を損なう恐れもあります。
現在、介護を行う労働者の仕事と介護の両立を支援する法律として、「育児介護休業法」があります。法律で定められている介護に関する制度について確認します。(法人に規程がありますので、確認しておきましょう)
制度 | 概要 |
介護休業 | 労働者は申し出ることにより、要介護状態にある対象家族1人につき通算93日まで、3回を上限として、介護休業を分割して取得することができる。 |
介護休暇 | 要介護状態にある対象家族が1人であれば年に5日まで、2人以上であれば年に10日まで、時間単位での取得が可能。すべての労働者が取得できる。 |
所定労働時間の短縮等の措置 | 事業主は、①短時間勤務制度(短日勤務、隔日勤務なども含む)、②フレックスタイム制度③時差出勤制度④介護サービスの費用助成のいずれかの措置について、介護休業とは別に、要介護状態にある対象家族1人につき利用開始から3年間で2回以上の利用が可能な措置を講じなければならない。 |
所定外労働時間の制限 | 1回の請求につき1月以上1年以内の期間で、所定外労働の制限を請求することができる。請求できる回数に制限はなく、介護終了までに必要なときに利用することが可能。 |
時間外労働の制限 | 1回の請求につき1月以上1年以内の期間で、1カ月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働の制限を請求することができる。請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要なときに利用することが可能。 |
深夜業の制限 | 1回の請求につき1月以上6月以内の期間で、深夜業(午後10時から午前5時までの労働)の制限を請求することができる。請求できる回数に制限はなく、介護終了までの必要なときに利用することが可能。 |
転勤に対する配所 | 事業主は、就業場所の変更を伴う配置の変更を行おうとする場合、その就業場所の変更によって介護が困難になる労働者がいるときは、その労働者の介護の状況に配慮しなければならない。 |
不利益取扱いの禁止 | 事業主は、介護休業などの制度の申し出や取得を理由として解雇などの不利益取扱いをしてはなりません。 |
介護休業等に関するハラスメント防止措置 | 事業主は、介護休業などの制度の申し出や利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。 |
介護休業給付金 | 雇用保険の被保険者で要介護状態にある家族を介護するために介護休業を取得した場合、一定の要件を満たせば、介護休業開始時賃金月額の67%が支給される。 |
上記の制度を利用するにおいて、法人と利用する職員からみた注意点を考えてみましょう。
〈法人〉
1.職員の仕事と介護の両立に関する実態把握
はじめは簡単なヒアリングなど家族の健康状態を把握しておく。介護に関する可能性などを把握しておく。
2.制度設計・見直し
就業規則や介護休業規程の内容が、法定の基準を満たしているか、職員の支援ニーズに対応しているかを確認する。
3.介護休業などについて周知や理解
“困ったときはお互いさま”という風土を醸成するように、普段より意識を促す。職員研修などでも制度周知を徹底しておく。
〈職員〉
- もし介護の可能性が発生したときは、園長や主任に相談する。
- 日頃より、「自分にしかできない仕事」は何か、「他の人に割り振れる仕事」はないかなど、仕事内容をきちんと整理しておく。
- 利用できる介護サービスを早めに確認する。地域包括支援センターや自治体の相談窓口を通じて、今後の支援や介護サービスを検討する。
- 介護休暇、介護休業の取得のバランスを検討する。
幼稚園や保育園、認定こども園の経営にあたり、園児数の確保の観点から、出生率に注目するのは重要です。出生率の低下による園児数の減少は経営に直結します。しかし、同時に出生率の低下は、高齢化率の上昇を意味します。令和3年10月1日現在、65歳以上の総人口に占める割合(高齢化率)は28.9%(令和4年版高齢社会白書より)、このまま高齢化率が上昇すると、令和18年には33.3%、令和47年には38.4%、さらに75歳以上の人口割合は25.5%、およそ3.9人に1人が75歳以上になると想定されています。
少子化と同じく高齢化も間接的に経営にかかわってくる大きな問題ということを認識する必要があります。日頃から、「他人事」ではなく「自分事」として準備しておきましょう。「想定外」の事態に備えるのは困難ですが、少なくとも「介護離職リスク」は「想定内」の事態として備えておくことが、リスクマネジメントとして不可欠です。
参考:ガイドブック-企業のための―仕事と介護の両立支援ガイド~従業員の介護離職を防ぐために / 厚生労働省 、令和4年版 高齢社会白書 全体版 / 内閣府
(文責 齋藤)