【労務の談話室】第11回 職員の副業

副業を行うことは職員にとって収入UPが見込めるだけでなく、1つの仕事では出会えなかった人に出会える、本業ではしえなかった経験から幅広い視野を持てるなどのメリットがあります。また、法人側も、本業以外で得た経験やスキルを本業で活用してもらえるという期待が持てます。今回は、法人側が副業の許可を検討するときに知っておくべき、労働時間管理や健康管理のポイントについてお伝えいたします。

 

現在、国は、「副業・兼業の促進に関するガイドライン」にて副業・兼業を希望する労働者の健康確保や労働時間管理のルールを明確にしたうえ、副業・兼業の普及を促進していますが、そもそも、法人は副業を認めないといけないのでしょうか。

職員が、労働時間以外の時間をどのように利用するかは職員の“自由”です。そのため、職員の希望に応じ、原則副業を認めることが望ましいとされています。とはいえ、法人には副業を認める上で懸念事項もあるはずなので、どういう懸念事項があるかを精査し、副業を認めるかどうか、また、認めるとしても一定の条件をつける等の判断が必要です。

≪副業を認めない、または、認めるが条件付きとする理由(例)≫

*本業の仕事への支障

*働きすぎによる心身の健康負荷

*業務上の秘密などの情報漏えい/競業による自法人利益の侵害

*社会的信用の低下        など

たとえば、

  • 夜間の副業によって、早番シフトの日に遅刻して開園準備が間に合わない可能性がある。
  • 園独自の保育の取組をうっかり副業先の園で話してしまい、模倣されてしまう可能性がある。
  • 保育士として勤務しながら、公序良俗に反する副業に従事し、園の評判が落ちてしまう可能性がある。  など

上記にあげた事項等にあてはまることにより副業を認めない場合は、職員にきちんと説明した上で理解をしていただくことが必要です。

 

法人が副業を認める方針を決めた場合、労務管理の仕組みづくりや就業規則の整備を検討します。

 

副業での労務管理では、労働時間に注意が必要です。法令等では、自法人と副業先の労働時間を通算するものと通算しないものがありますが、原則、副業をする職員の労働時間は、自法人の労働時間と職員の申告によって把握した副業先の労働時間を通算して1日8時間、週40時間を超える部分が時間外労働となります。

 

  • 原則的な労働時間管理方法

ステップ1 所定労働時間について、労働契約を締結した先→後の順番で通算

                       する

ステップ2 時間外労働の発生した順番で時間外労働時間を通算する

例1)A保育園と先に「1日8時間」の労働契約を締結後、B事業所(※この例ではカフェを想定します)と新たに「1日2時間」の労働契約を締結し副業している場合

→先に労働契約を締結しているA保育園は、法定労働時間内のため割増賃金の支払はありません。一方、A保育園での労働時間が1日の法定労働時間に達しているため、B事業所(カフェ)で働く時間はすべて法定外労働時間となり、割増賃金の支払が必要です。

 

例2)A保育園と先に「1日4時間」の労働契約を締結後、B事業所(カフェ)と新たに「1日4時間」の労働契約を締結し副業している場合で、A保育園で「1日5時間」就業した場合

→A保育園とB事業所(カフェ)の所定労働時間を通算して8時間に達しているため、いずれの保育園も所定労働時間を超えて働いた時間は、すべて法定外労働時間となります。例2の場合、A保育園で行った時間外労働の1時間分は、割増賃金の支払が必要です。

 

2.簡便な労働時間管理の方法(管理モデル)

原則的な労働時間管理は、職員にとっては毎月複数の就業先への労働時間の申告が、また各法人にとっては労働契約や毎月の労働時間の通算管理が、それぞれ必要となり、双方にとって負担となります。厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインで、簡便的な労働時間管理として「管理モデル」という考え方を示しています。

管理モデルは、先に労働契約を締結したA保育園の「法定外労働時間」と後から締結したB事業所(カフェ)の「労働時間(所定労働時間および所定外労働時間)」の合計時間数が、単月100時間未満、複数月平均80時間以内となる範囲内でそれぞれ上限を設定し、その範囲内で働くことで労使双方の労働時間の申告、通算管理をしなくても法令等違反にならない仕組みです。

例)A保育園     所定労働時間 週40時間 

            法定外労働時間の上限 週5時間

  B事業所(カフェ)  労働時間の上限 週10時間

→この場合、A保育園では所定外労働のすべてが、B事業所(カフェ)では労働時間のすべてが、それぞれ割増賃金の対象となるので、給与計算はかなり楽になると想定されます。そして、この運用においては、法定外労働時間は週15時間となり、基準である複数月平均80時間を超えることもありません。

 

管理モデルは、職員と副業先に導入を求め、応じてもらう必要があります。導入後のトラブル防止のため、管理モデル実施のための書面を自法人、副業先、職員の三者間で共有することをおすすめします。管理モデルでは割増賃金の支払義務の考え方が、原則的な「1.労働時間管理の通算」のステップとは異なるため注意が必要です。

 

副業に係る労務管理でもう1つ重要なのは、職員の健康管理です。法人は、職員が健康に働けるように健康状況を把握し、健康管理に努める必要があります。特に、副業をする職員は、長時間労働になる可能性が高いため、働きすぎとならないように、労使の話合いをもとに健康確保のための措置の実施をおすすめします。また、中高年齢者にあたる45歳以上は、加齢に伴う心身機能の変化と無理な行動により、労働災害の発生リスクも高まります。法令でも中高年齢者の労災防止の就業上の配慮が求められています。副業を条件付きで認めるときに、直近の健康診断の結果が業務遂行に問題がないことなどの基準を設けること等もおすすめします。

 

職員の副業を認めるにあたり、就業規則の見直しをしたいなどご相談がございましたら、お気軽に当社までお問い合わせください。

(文責:横田)