【労務の談話室】第8回 退職後の傷病手当金について

業務外での事由により、病気やケガで仕事を休むこととなった場合は、有給休暇の取得としなければその間給与が支給されませんが、その場合は健康保険から傷病手当金を受け取ることができます。

この病気やケガの回復が難しく、そのまま退職となった場合はどうなるのでしょうか?こうした場合にも一定の条件を満たせば、そのまま退職することになった後も傷病手当金を受給できるケースがあります。今回は「退職後の傷病手当金」がテーマです。2022年1月1日から、健康保険法等の改正により、傷病手当金の支給期間に変更がありますので、あわせて記載します。

 

まずは傷病手当金の仕組みについてです。以下の要件を満たした場合に支給されることとなります。

  • 業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んでいること

→業務上によるものは労災保険の給付対象

  • 仕事に就くことができないこと

→療養担当者(医師)の意見等を基に、本人の仕事内容を考慮して判断

  • 連続する3日間を含み4日以上仕事に就くことができなかったこと

→病気やケガのため仕事を休んだ日から連続して3日間が待期期間となり、

4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給(待期期間は有給休暇取得も可能)

  • 上記①の期間について、給与の支給がないこと

→給与の支給がある場合、傷病手当金の額よりも給与の額が少ない場合に差額を支給

 

上記の要件に該当した場合は、給与を日額換算した際のおよそ3分の2の額が傷病手当金として支給され、期間は最長1年6か月となります。仕事に復帰し、後日にまた同じ傷病で休業することとなった場合には、待期期間を設けず支給継続となります。

 この支給期間ですが、現在は「支給開始した日から最長1年6か月」であり、復職した後の不支給期間もこの「支給開始した日から最長1年6か月」の期間に含まれていましたが、冒頭で触れましたように、2022年1月1日以降、法改正により「支給期間を通算して1年6か月」となり、職場復帰した後の不支給期間はこの「支給期間を通算して1年6か月」に含まれず、1年6か月分の支給が受けられることとなります。

 

以上が傷病手当金支給の基本となる部分ですが、復職が難しくそのまま退職する場合の継続受給には、以下の2点が条件となります。

  • 資格を喪失した日の前日(退職日)まで引き続き1年以上被保険者であった
  • 資格を喪失したときに傷病手当金を受けていた、または受けられる状態であった

~それぞれのポイントについて~

→①については被保険者として「継続している」ことです。現在の職場の在籍期間は1年未満であっても、前職からの社会保険の資格が1日の空白もなく継続していれば、前職の被保険者であった期間が通算されるためです。ただし国民健康保険や任意継続被保険者の期間は通算されません。

→②の「受けられる状態」とは、報酬を受けていることなどにより傷病手当金の支給が一時停止されているものの、受給資格はある状態を指します。なお退職日に出勤した場合は労務不能に当たらないとみなされるため、退職後の傷病手当金の支給はされませんのでご注意ください。(労務不能により、退職日を有休休暇取得とした場合は、受給できます。)

 

今回は「退職後の傷病手当金」をテーマに、休職からそのまま退職となった場合の生活保障として、上記の条件をみたせば、受給可能であることをお伝えいたしました。

なお退職した場合には雇用保険の「基本手当」(いわゆる失業手当)を受給できるとイメージされる方もいらっしゃるかと思いますが、「基本手当」は“働ける状態で職を失っている”場合に受給対象となるので、傷病手当金を受け取る状態の人は該当となりません。

 

最近は、保育園や認定こども園の職員の方でも、病気(特に精神的疾患が多く見受けられます)などで休業期間が長引くケースが増えていると感じます。

法改正の背景として治療と仕事の両立の観点があり、病気を抱えながらでも仕事ができる環境づくり、病気で退職せざるを得ない方への支援体制づくりが想定されます。安心して仕事を続けながら病気やケガを直してもらうのはもちろんですが、退職する場合も病気やケガが治るまで安心して治療に専念してもらえるよう、引き続き受給可能な手当として、職員の方への周知をされると職員も安心されるのではないでしょうか。

(文責 佐藤)